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土用のうなぎと平賀源内;やくろう編集版

土用のうなぎと平賀源内 1.

2010年08月27日

“土用のうなぎ” とは、料理店に、夏場、売れ残ったうなぎの処分法を問われた平賀源内が考え出した、と伝えられています。

うなぎのビタミン

梅雨のあと、実りの秋の前、猛烈な日照りで野菜が不安定な時節。
汗だくでは、普通、脂っこいものは敬遠しがちなものです。
それを、

(夏の)土用の丑(うし)は、うなぎの日とは。

有無を言わせず口にしたくなるキャッチフレーズです。
なにしろ、動物性高蛋白食で、ビタミンA,Dが豊富です。
日焼けの皮膚、ねばりの活力、そして、動き回って疲れた骨の回復です。

脂っこい魚を、刺身では生食であっさりと、一方では、
抜いた油分を、余計(な脂)と納得させる捌き方で解決。
勇気を出して食べれば、しかも、なんと旨い。

うなぎは、平安時代以前から、食べていたものらしいけれど
生の血には毒がありますので、
調理は十分に加熱しなければいけません。

関西では、普通どおり腹側に包丁を入れ、骨を滑り取り、串で形を整えながら付っきりで備長炭でじっくり焼き上げます。

京菓子は、季節を食らうデザートなら、うなぎ料理は、待ち時間という間合いを食べる料理です。
サンチョ・パンサの言うとおり、「空腹は、最大の料理人だで、」
注文した後で、あらかじめの予定を過ごし終えてからの食事となります。

一方、関東では、背開きにして、蒸します。
それにしても、“背開きにして蒸す”というのは、なんとも奇抜。
そりゃ、柔らかくとも容姿が崩れりゃ値打ちがない。
蒸すことで、手間なく熱をかけられても、身は串にこぼれちゃう。

そこで、解決法は、その体型を利用した、背開きに限ります。
そして、この逆さま作法を自然に見せるには、やはり、最後は、ダメ押し 紫で隠す、たれの付け焼きが良い。

蒸して汗をしぼった、肉身をほお張り、舌で切る。
ほんのりと、"たれ” の甘味と、焼き目が、柔らかさを引き立てます。
この時、今割いたばかりの香の物が、さながら、舌を磨ぎ、なまらせないようにしているのかと感じます。

江戸前の優秀さに、ここは一理あります。
絨毯のように敷き詰めることも手際良いです。


土用のうなぎと平賀源内 2.

2010年09月13日

日本料理の話

この手間暇かけた珍妙な料理法が、どうして出来たのか?

空想ですが、存外、家康公御贔屓(ひいき)のイギリス人、三浦按針と江戸の人々との交流が契機となって、テムズ河畔の名物料理(うなぎパイ)
―うなぎのぶつ切りをシチューにして長時間煮込む― をヒントにして、精進料理との合作だったとしたら、、、?

空想を広げます。
元禄の江戸っ子でなくても、江戸前の和食のうち、蕎麦、刺身、寿司はともかく、グルメな権現様なら、好みの天婦羅に加え、鰻重もご存知だったら、きっと大好物だったでしょう。
初夢も代わっていたかも?

天婦羅は、ポルトガル、スペイン辺りが本籍と言われています。
ヨーロッパの宗教戦争が、植民地争奪と相まって、結果、ほぼ、同時期に
遠い東洋の食を育んでくれたとしたら愉快です。

宗教戦争の敵同士をまるごと日本料理にしてしまったのですから。

一体、
日本料理とは、ほとんどが、古来独立固有の料理ではなく、元々は、伝来の料理をいかに歪め、育てるか、
その極め付きではないかと思います。

完成した日本料理の方よりも、その
歪めてゆくその歪め方の精神性や方向の、 確かな、ある “らしさ” こそが 
 特有の“日本的なもの” ではないかと思えるのです。

お読みいただき ありがとうございます。



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